こちらのページでは、糖尿病についての情報を皆様にご提供しております。
皆さまの糖尿病への理解を深める一助になればと存じます。
糖尿病の合併症と言うと、三大合併症(糖尿病性末梢神経障害、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症)や大血管障害(脳血管障害、心臓血管障害など)が有名ですが今回とりあげた感染症も重要な併発症の一つです。
糖尿病患者さんは感染症に罹りやすく、悪化しやすいと言われています。
そして感染症にかかると血糖値の上昇をきたし糖尿病のコントロールにも影響を与えます。
人間の体は、体内に侵入しようとする病原菌やウィルスと常に戦っています。
これらは『感染防御機構』と呼ばれ、主に種々の白血球が防御を担当しています。
糖尿病患者さんではこの『感染防御機構』が低下していたり破綻していたりしていると言われています。
具体的には高血糖状態が続くと、次のような状態に陥ります。
具体的に糖尿病患者さんが罹りやすい、主な感染症を挙げてみますと、尿路感染症(尿道炎、膀胱炎、腎盂炎など)上気道炎、肺炎、結核、胆嚢炎、皮膚感染症(水虫、カンジダ症、壊疽など)、歯肉炎などが挙げられます。
注:この文章は衛生時報4月号にも掲載されています。
健康診断を受けて、「境界型糖尿病と言われてしまったが、糖尿病は病気だが境界型は糖尿病予備軍で病気ではないからまだ大丈夫、そんなに心配することはない。」と思っている方が多いようですが、本当はどうなのでしょうか。
最近この問題について国内外で続々とその答えが、大規模調査の結果として報告されています。
まず一つ目は、境界型の時点から積極的に悪しき生活習慣を改善し、糖尿病治療に準じて治療を行ったら、生活習慣非改善群に比べてあきらかに糖尿病になる確率が減ったという、米国で行われた「DPP」と呼ばれる大規模調査の結果です。次に国際的多施設研究である「STOP-NIDDM trial」と
呼ばれる、境界型糖尿病に対する糖尿病治療薬の一つである食後過血糖改善薬(α-グルコシダーゼ阻害薬)の予防投与による大規模調査
でも、予防投与された群で明らかに、糖尿病の発症が少なかったと報告されました。
しかもこの調査では、食後過血糖(空腹時血糖は正常もしくは境界域だが食後の血糖が大きく上がってしまう状態をいいます。)を改善することによって、
心血管系の病気や高血圧の発症頻度まで低下させることが解り、動脈硬化の発症、進展に食後過血糖が大きく関与している可能性が示され、食後過血糖の改善の重要性が脚光を浴びました。
一方国内でも「JDPP(日本糖尿病予防研究)」の報告があり、境界型糖尿病に生活習慣改善を積極的に押しすすめた方が糖尿病発症を
明らかに減少したという調査結果を報告しています。
「広島スタディ」と呼ばれる調査研究でも同様の結果が報告されています。
これらの調査研究は、境界型の時点から食事療法、運動療法などで積極的に生活習慣を改善することや、ある種の糖尿病治療薬により、糖尿病の発症を高率に予防できることを示しています。
では血糖値がどの程度を境界型と言うのでしょうか。 早朝空腹時血糖値なら110~125mg/dlの間であれば境界型、経口ブドウ糖負荷試験 では2時間値が140~199mg/dlの間が境界型といえます。
確かに、境界型の時点では、眼底出血など糖尿病に特異的な合併症は稀にしか 起こりません。しかし狭心症や心筋梗塞、そして脳梗塞などの 心血管系疾患になるのは、境界型の方が非常に多いことが知られています。 また境界型は放っておけば、やがて糖尿病域の方へ徐々に悪化していきます。 糖尿病と診断されてからでは遅いのです。境界型と診断されたら、 少なくとも今までのような曖昧な生活習慣改善にとどまらず、厳格な食事療法、 運動療法が必要であると肝に銘じてほしいと思います。 境界型は、治療の面からはもう糖尿病と考えてほしいのです。 特に食後過血糖状態の境界型の方は注意が必要と言えます。
糖尿病は生活習慣病の代表として、良く知られた病気です。
2012年の国民健康・栄養調査結果の推計で糖尿病が強く疑われる成人男女が約950万人に上ることが分かりました。糖尿病の有病数は5年に1回推計しており、前回(2007年)から約60万人増え、過去最多となりました。
今まさに国民病となりつつある糖尿病ですが、今後は糖尿病発症の強力な予防策をとることはもちろん、自覚症状のない軽症糖尿病患者にも積極的に治療を行い、QOL(生活の質)を極端に落としたり、医療費増加の原因ともなる、糖尿病合併症の発症進展をできる限りおさえこむ必要があります。
さて糖尿病の治療と言うと、食事療法、運動療法、薬物療法が三本柱ですが、今回は最近の薬物療法のお話をします。
数年前までは糖尿病の飲み薬(経口剤)といえば、使える薬はSU剤にほぼ限られていました。
SU剤は膵臓のランゲルハンス島細胞(血糖を下げる働きのあるインスリンというホルモンを産生したり、必要に応じて血中に分泌させる細胞)に働いて、血糖を下げるインスリンの分泌を盛んにさせる薬です。
この薬のことをインスリンの飲み薬と思っている方が時々いらっしゃいますが、正確にいえばインスリン分泌促進剤であってインスリンそのものではないのです。
この薬の特徴は血糖を下げる効果が非常に強いことです。
しかしその反面、長時間強力にランゲルハンス島細胞を刺激し、インスリンをしぼりとるように分泌させるため、食事療法や運動療法が守られないまま服用していると、一日の服用量が徐々に増え、さらにランゲルハンス島細胞が毎日強い刺激を受けるため疲弊現象をおこしてインスリンの産生、分泌が止まってしまいます。そのため、いくら薬を飲んでもインスリンが分泌されず血糖が下がらなくなり、インスリン注射が必要になってしまいます。
そこでこれらの弱点を補う目的で短時間作用型のSU剤が開発されました。
この薬はやはりランゲルハンス島細胞を刺激してインスリン分泌を刺激するわけですが、その作用時間が短く、しかも服用後効果発現までの時間が非常に速いことが特徴です。作用時間が短いためランゲルハンス島細胞にかかる負荷が少なくなり、疲弊現象が起きにくいこととなります。また作用発現時間が速いこと は腸管の食物吸収による食後の急激な血糖上昇に対処しやすくなるわけです。
しかしこの薬にも弱点があります。それは従来のSU剤にくらべて血糖降下作用が弱いこと、そして一日三回毎食直前に服用が必要なことなどです。
この薬は古くから使用されていましたが、一時期、まれではあるが重篤な副作用の乳酸アシドーシスが恐れられ、ほとんど使用されない時期がありました。
しかし注意して使用すればかなり有効な薬であると再認識され再び使用されています。細胞での血糖利用を高める働きがあり、インスリンが出ているのに血糖を利用できない肥満型糖尿病に有効性が期待されています。
この薬は、おもに腸管内で、糖質を血中に吸収されるブドウ糖に分解する酵素の働きを抑える作用があります。このため糖質の消化吸収が遅れ、食後の過度の血糖上昇を改善することができます。水溶性の食物繊維にもこの作用が認められています。この薬の弱点として、吸収の遅れた糖質の一部が大腸に送られて腸内細菌が繁殖し、ガスを発生し、腹部膨満感や放屁(おなら)の原因となることがあります。
この薬も一日三回食直前服用が必要です。
この薬自体はインスリン分泌作用はありませんが、インスリンの作用を強める働きがあります。肥満型や女性の糖尿病(皮下脂肪が多い)に効果的です。
運動療法にもインスリン抵抗性改善効果があることから、飲む運動療法の薬とも言えましょう。稀に肝障害を起こす事があるので定期的な肝機能チェックが必要です。
消化管ホルモン1つで血中ブドウ糖依存性にインスリンの分泌を促す(血糖が上がるとインスリンの分泌を促進し、血糖が下がると効力を落とす)インクレチンという物質の分解酵素のDPP4を阻害する事によってインクレチンの血中濃度を上げインスリンの分泌を促進させようと考えて造られた薬です。
尿中に糖がたくさん出ると糖尿病が悪化したと考える今までの常識をくつがえす、新薬です。この薬の最大の特徴は、尿中のブドウ糖を血液に再吸収する働きのあるSGL2の働きを抑えて積極的に、血中のブドウ糖尿中に排泄させ、まず最初に高血糖の状態を改善することによって、インスリン抵抗性を改善させたり、血糖値の低下によって疲弊したすい臓のランゲルハンス島B細胞の負担を低下させインスリンの分泌能を回復させようと考えてつくらえた薬です。
(※平成26年春頃に発売予定です)
小腸から分泌される消化管ホルモンの一種であるGLPの構造を少し変えてつくられた注射薬です。一日一回だけ注射することによって、血糖値が高い時だけにインスリン分泌を促進したり、血糖を上げる消化管ホルモンの一種であるグルカゴンの分泌を抑制したりする作用があります。また胃内容物排出を抑制することによって食後の急激な血糖上昇を防いだり、食欲抑制などもあることが知られています。
などの種類があり、これらのインスリンを患者さんの状態にあわせて使用します。
当院では毎食前に(a)、朝または夕食後に(d)を打つ強化インスリン療法を行っている患者さんが多い様です。
以上、現在使用可能な糖尿病の治療薬を概説してきましたが、なんといっても朗報は、数年前と比べると格段に選択薬が増加し、状態に応じて使い分けができることになったことです。
しかし、お分かりのこととは思いますが、これらの薬を飲みさえすれば糖尿病がすぐに治るということではありません。
基礎となる食事、運動療法とともに生涯に渡った治療が必要な事は言うまでもありません。
糖尿病でインスリン注射をされている患者さんの一日数回のインスリン注射は、負担が多く従来から改善点として挙げられてきました。しかし吸入式インスリンができれば多くの患者さん達が注射から解放されることになりこれを待っている患者さんも多いと思いますが、定められた量がきちんと吸収されるかどうかなどまだ問題点があり医療現場に出てくる前にはまだ数年かかりそうです。
iPS細胞による自前のβ細胞の作成と移植。
夢のような治療となりますが着々と準備が進んでいるようです。